Magnetic

「行為」に生まれる価値の研究
— 栽培・加工・制作 —

宮島 千枝 / MIYAJIMA CHIE

Media:冊子・和紙・糸



実体のない「制作行為」に価値はあるのだろうか。大学院博士前期課程一年次、文字をすべて手縫いした冊子をコピーしただけの複製本に対して「あなたが縫ったという行為の記録を買いたい」と話す人に出会った。作品ではなく、私が作品を制作したという「行為」自体に対価が生まれた。制作に至るまでのすべての「行為」を自分自身の手で行い、つくりあげた作品はどんな価値を生むのだろうか。
田舎の農家に生まれ、すべてのものをつくる「行為」の根源には「農」があると感じていた私は、制作の素材となる糸と紙をつくるための植物から育てることにした。種から栽培し収穫した植物を糸と紙に加工し、その素材から作品を制作することを試みである。糸の原料である綿花。紙の原料である、ケナフ・稲・花オクラ。一年をかけて、4つの植物を栽培し、自分の手で糸を紡ぎ、紙を漉くという加工を経て、その糸と紙を使って作品を制作した。栽培・加工・制作の行為の記録を写真に収め、それぞれの「行為」の経験から感じたことを文章にまとめ、写真と言葉による3部作の冊子を制作した。
自分で育てた植物を紙や糸にかえて、その紙や糸を使ってひと針ずつ文字を紡ぎ出す。時間のかかることだからこそ、その中にしか存在しない価値は確かにここにあった。

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